今、林業に必要なものは?
そこから始まった多角化戦略
3代目の山田輝幸社長は、次々に新事業を展開するほか、岐阜県森林施業協会の会長も務めています。
木を育て、伐り、使う。その林業のサイクルをこれからも持続させていくために、必要なものとは。そう考え、自ら事業を立ち上げて新しい林業経営を展開している林業事業者がいます。今回は、木くずのリサイクルプラントを持つ、多治見市の(株)山田林業でお話を聞きました。
林業のサイクルで出る廃棄物を
林業事業者がリサイクル
木くずをチップ化する破砕機。
陶器のまち・多治見で、かつては窯の燃料として多くの材木を伐り出していたという山田林業。しかし、3代目を継いだ山田輝幸社長は、1980年代をピークに木材価格が下がり続ける中、創業以来行ってきた森林伐採事業だけでは継続が難しいと感じ、さまざまな事業を展開しています。
その1つが、間伐や工事伐採などで出る木くずのリサイクルプラントです。伐採した木から建材などに使用できる幹部分を伐り出すと、不要な枝や根株などが残ります。昔はそうした部分を野焼きなどで燃やしていましたが、現在は産業廃棄物として処理をしなければなりません。そこで山田社長は、その資源を有効利用するリサイクルプラントを設け、中間処理業をスタートしました。
「当時、この地域には生木を処理する場所がありませんでした。どんなに木を伐ってきても、処理する場所がないと林業事業者は困ってしまう。ならば、先陣を切ってやってみようと。今ではこの地域だけでなく、県外からも持ち込みが増えています」と、山田社長はこの事業の意義を語ります。
リサイクルプラントでは、持ち込まれた木くずを破砕機にかけてチップにし、ふるいにかけて大きさを選別。大きさが揃ったものはバイオマス発電所の燃料として、細かいものはたい肥原料として供給されます。山田社長は「近年、間伐材由来のバイオマス発電所が増えていて、今後需要がさらに高まるだろうと感じている」と、手応えを感じているようです。
旋回式ふるい機で選別して出荷。
新しい事業展開は
若手が活躍できる場づくりにも
右は、大学卒業後に入社した長男の幸之介さん。
山田林業を訪れた際に気づいたのは、若手従業員が多いという点。山田社長に聞くと、現在20代が4名、30代が1名勤務しており、「今後4~5年かけて若手を育成し、仕事を引き継いでいきたい」とのことでした。
森林での伐採事業に従事する山田社長の長男・幸之介さんも、これからを担う若手の1人。もともと体を動かすのが好きで、林業にも興味を持ち、大学で環境について学んだ後にこの会社に入りました。「伐採の仕事は、大木を倒す爽快感はもちろん、徐々に森がきれいに整備されていく達成感があり、おもしろさを感じています。自分の技量が目に見えて分かる点も、やりがいがありますね」そんな言葉に、次世代を担うエネルギーと、働く楽しさが伝わってきます。
幸之介さんは現在、現場での伐採事業を担当
もう1人、お話を聞いたのは、岐阜県森林文化アカデミーのエンジニア科を卒業後、山田林業に入社した安江勇樹さん(28)。安江さんは現在、リサイクルプラントを担当しています。
プラントでは、多い時で1日に60~70トンの木くずがリサイクルされるそう。「自分たちが伐った木が、余すところなく再利用されるのを見ると、やはり環境や社会に貢献できていると感じられて、いい仕事だなと思います」と話す安江さんは、チップ化された木くずを仕分けして運んだり、運ばれてきた木くずを破砕しやすいように割ったりと、テキパキと作業をこなしていました。
岐阜県立森林アカデミーでは、エンジニア科で2年間、森林について学び、チェーンソーの資格も取得したという安江さん。
若手の育成に力を入れる山田社長には、もう1つ大きな目標があります。それは、女性技術者を育てること。実は、今年から初めて大学生の新卒を募集したところ、来年4月から2名の女性が入社することに決まったといいます。そのうち1名は現場技術者を希望しており、山田社長は「ゆくゆくはさらに女性技術者を増やして、間伐事業の女性チームがつくれたら」と夢を膨らませています。
木の良さを感じられるカフェで
地域の活性化にも尽力
地元の木をふんだんに使ったcafé montanaは「入った瞬間に木のいい香りがする」と好評。
山田林業が新たに手がけた事業の1つが、観光農園に隣接するカフェの運営です。きっかけは、3年前に地域活性化の一環として営農組織が立ち上がり、いちごやブルーベリーの観光農園がオープンしたこと。そこで山田社長は、この取り組みをさらに盛り立てるためにも、観光客が一息つける場所が必要と考え、カフェ経営に乗り出しました。
林業事業体が行うカフェらしく、店舗には地元の木材を使い、木の美しさや温もりを体感してもらえる空間に。観光農園でいちご狩りが行われる12~5月には、そのいちごがたっぷりと味わえるパフェもメニューに登場し、観光客を楽しませています。
「最初は利益が出なくてもいいと思っていたけれど、口コミで評判が広がり、店を維持できるまでになりました。お客さんの声を聞いていると、意外と木の空間が好きな人は多く、私も店にいる時は『ヒノキだから高いというわけじゃない』とか、『外国産材より今は国産材の方が安価なものも多い』など、積極的に木について説明でき、会話を通じてお互いに気づきがあるいい機会になっています」と話す山田社長。
従来の林業を超えた新たな挑戦は、今まで気づかなかった林業の新たな可能性を教えてくれているようです。
日本に古くから伝わる建築にも触れてもらえるよう、太い大黒柱や丸太梁などを多用。柱や店内のテーブルは、現場で使える木を取っておいて再利用しました。
店を切り盛りするのは、山田社長の奥様。店内では、いちごや桃など季節のフルーツを使ったパフェをはじめ、手作りスイーツが楽しめます。
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