(株)岐阜緑地 鈴木 康範さん
・岐阜県伐木安全技術評価会2020 中堅技術者の部:優勝
・岐阜県伐木安全技術評価会2022 プロフェッショナルクラス:優勝
国内でも年を追うごとに、JLC(日本伐木チャンピオンシップ)など、林業技術を競う大会が盛り上がりを見せる中、岐阜県においても「岐阜県伐木安全技術評価会」が令和2年度にスタートしました。
この岐阜県伐木安全技術評価会において、過去3大会のうち出場した2回にいずれも優勝された、(株)岐阜緑地の鈴木康範さんに、仕事のこと、競技会のこと、若い技術者の方々に伝えたいことなど、お話を伺いました。
(株)岐阜緑地の鈴木康範さん
陽の光の下で働きたいとの思いを抱いて
若い頃、この世界に入る前は、飲食業に従事されていたという鈴木さん。もともとアウトドアが好きで、屋内よりも陽の光の下で働いてみたい、という思いを抱いていたところに、たまたま(有)根尾開発の求人募集があり、応募したところ採用され、林業の世界に足を踏み入れられたとのこと。(有)根尾開発に入社後は、土木の仕事を経て、30代の頃からずっと木材生産の仕事一筋に活躍されてきました。その後、業務内容により、育林は(有)根尾開発、木材生産は分社化された(株)岐阜緑地と整理されたため、現在は、(株)岐阜緑地に所属して、両社唯一の生産班の班長として林産の仕事に取り組まれている鈴木さん。生産班の主な仕事としては、8割が搬出間伐で、その他、風倒木の処理や危険木の除去、皆伐など様々な仕事を行っているそうです。「木材生産の仕事は、作業が多様で様々な機械を扱うため、ある工程で遅れが出ても他の工程でどのようにでも挽回できたりする。工夫の甲斐もあるし、何よりやっていて楽しいです。」(鈴木さん)
取材日は風倒木の処理をされていた鈴木さん
岐阜県内の競技会への参加
そんな鈴木さんが初めて競技会に出会ったのは、岐阜県で開催された第39回全国育樹祭の1年前イベントの一環として、平成26年の秋に岐阜県庁前で開催された「育林技術競技会」。こんな世界があったのか、と林業技術の競技会に興味を持つきっかけとなったイベントでした。YouTubeなどでJLCの動画などを見て興味や関心は持っていましたが、JLCへの出場は敷居が高く感じられ、なんとなく二の足を踏んでいらっしゃったそうです。そんな折、令和2年度の秋に「岐阜県伐木安全技術評価会」が岐阜県美濃市で初めて開催されることとなり、鈴木さんも参加。その結果、鈴木さんは初参加にして見事優勝を勝ち取ったのです。
JLC(日本伐木チャンピオンシップ)への挑戦
岐阜県での優勝を勝ち取った翌々年、鈴木さんはついにJLCへ挑戦します。「実は、岐阜県伐木安全技術評価会に参加するにあたって、この大会で、もし得点が1000点を超えたら、次はJLCに挑戦してみよう、と心に決めていました。」(鈴木さん)結果、1000点を超えることができたため、いよいよJLC(第4回日本伐木チャンピオンシップin青森)へ参戦することになりました。
実際にJLCに参加した結果、予選37位となり、残念ながら上位に食い込むことはできませんでした。「岐阜県で1位になってもJLCでは通用しなかった。全国のレベルの高さを痛感しました。」競技用のチェーンソーはあえて使用せず、普段使用しているチェーンソーで挑戦したということはあったのですが、それでもやはりトップクラスの選手はさすがの実力だったそうです。
競技会に挑戦して得られたもの
その後、さらなる鍛錬を重ねて、再度、令和4年度の秋、岐阜県の競技会に出場して2回目の優勝をされた鈴木さん。競技会に挑戦されてきて、得られたものをお伺いすると、「何より、世界が広がった、ということがとても大きいです。平成26年の育林技術競技会に参加して以来、県内各地の森林技術者の方々とも様々な繋がりを持つことができ、さらにJLCに参加することで全国にも仲間ができました。また、最近は講師として声をかけてもらったり、若い方々と一緒に練習したりと、本当に世界が広がりました。普段の仕事だけをやっていては得られなかった世界です。」
JLCへの参加には所属する事業体の理解と協力が不可欠であり、参加費などの費用負担に加えて仕事を休まなければいけないことによる収入減など、負担も大きかったそうですが、それをはるかに越えて得るものがあった、と鈴木さんは語ります。
共に競い合った仲間とともに(後列右から4人目が鈴木さん)
挑戦を経て仕事への意識にも変化が
また、競技会に参加するようになって、仕事への意識も大きく変わったそうです。
「以前は、言い方は悪いですが、伐倒できればいいというくらいの感覚だったのですが、受口や追口の水平や角度、ツル幅やツル高など、常に技術面の基準、正確さや効率、安全面を意識するようになりました。」その他、チェーンソーの目立てひとつとっても、ただ伐れればよい、ではなく、じわ~っと伐りたい時にはそう伐れるように、と目立てへの意識も変わってきたそうです。
「よく、競技と現場は違う、ということを言われがちですが、確かに、林業の現場は傾斜もありますし、ひとつとして同じ現場は無いため、競技のようにはなかなかいかないのですが、そうした中であっても、いかに基準に近づけられるかを意識することで、安全面や正確性、効率性は大きく向上するようになったと思います。」(鈴木さん)
講師として後進の指導に当たる鈴木さん(写真中央)
新しい展望とさらなる挑戦
今後の展望について伺うと、「岐阜県の競技会については、令和4年度の大会でも優勝させていただき、会社としても3連覇を果たすことができたので、今後は選手としてではなく大会のスタッフとして関わりたい。また、審判にも挑戦していきたいと思っています。近年は、競技会への参加者も増えてきていますが、参加事業体に偏りがあるようなので、若い方々も含め、もっと参加者の幅も広がってほしいと思っています。」と、岐阜県の競技会についてサポートに力を入れていく考えとのことです。
一方で、「JLCについては、やはりリベンジをしなければと思っていますので、引き続き挑戦していくつもりです。」とさらなる意気込みを語る鈴木さん。その他にも、研修講師の依頼が増すなど、競技会を経ることで、ご自身の新しい展望が見えてきたようです。
伐木の指導に当たる鈴木さん(写真左)
これからを担う若い森林技術者の方々に伝えたいこと
最後に、鈴木さんに、これからの林業を担う若い方々へのメッセージをお願いしたところ、「若い森林技術者の方々に伝えたいのは、林業の世界だけにとどまらず、常に学びを続け、自分の世界を広げよう、ということです。」と語られました。鈴木さんにとって影響が大きかったのは競技会への参加のようですが、それ以外にも、林業技士(森林評価/森林環境)の資格を取得される際、スクーリングで普段と違う都会の空気を吸うことで地元の良さを再発見したり、資格取得によって、新しい知見が得られ仕事の幅が広がったり、学びを続けることで少しずつ自分の世界を広げてこられたそうです。「これから何歳までできるかは分かりませんが、まだまだ学び続けたい、挑戦し続けたいと思っています。山師としての技術や視野を広げるだけでなく、人生を豊かにすることにも繋がるので、皆さんにもぜひ自ら努力して学び、林業だけに限らず、新しいことに挑戦し続けて欲しい、そう思います。」
穏やかに若い世代への思いを語られた鈴木さん。ご自身も実践を積み重ねてこられたからこそ、その言葉にはこれからの時代を担う方々に響くもの、伝わるものがあるのではないでしょうか。