木を植え、森を整え、家を建てる。自社で守り続ける森のサイクル。

林業会社/森林組合

取材先:株式会社洞口工務店

山は地域の財産
その環境を守り続けたい


北アルプスの南端に位置する日本百名山のひとつ乗鞍岳を望み、豊かな山村風景が広がる高山市丹生川町。この地で先代から植林を始め、地域の森林整備を続けてきたのが洞口工務店です。森を守りながら、木を活かした木造住宅の建築や道路や河川などの土木工事など、幅広い事業を展開する株式会社洞口工務店 代表取締役の洞口良三さんに、林業への思いを聞きました。

森林を整備する中で感じる
地域の変化と課題

植林してきた山々を背に思いを語る、洞口工務店代表取締役の洞口良三さん。

洞口工務店は、昭和56年に建築業として創業しましたが、先代が乗鞍岳近くの山を購入し、植林を始めたことをきっかけに、林業をスタート。雄大な山々に囲まれながらも、植林の歴史は浅かった飛騨地方で、先代は次々と山を取得し、スギやヒノキを植えていったそうです。その思いとともに事業を受け継いだ洞口良三さんは、家族で守ってきた山々に加えて、地域の山林所有者にも声をかけ、間伐などの森林整備に注力。所有者の希望に耳を傾けながら、地元工務店ならではの細やかな対応で、山を手入れしています。

手入れが困難な地域の山林所有者に声をかけて、間伐など森林整備を実施。

日本一といわれるほど広大な森林を有する高山市の森づくり委員会委員長も務めている洞口さん。近年は、森林を整備する中で、地域の山々に起こっている変化を感じているといいます。
それは野生動物による獣害の増加。シカが樹木の皮を角でこすったり、クマが樹液を舐めるために樹皮を剥いだりすると、樹木の健全な成長を妨げるのはもちろん、木も傷ついて木材としての価値も下がってしまいます。また、木を伐採した後に新たな植林をする再造林をしても、植えた苗木が食べられてしまう恐れもあります。
「農作物と同じように、森も植林をする前に獣害対策が必要」と話し、獣害は地域の林業の新たな課題と訴える洞口さん。「森は1年でも人が入らないと、荒れてしまいます。人が入って手入れしていれば、動物たちも自分たちのテリトリーを広げることはない。健やかな森を維持するためには、林業を継続していくことが大切」と、洞口さんは地域の財産である森林の整備へのさらなる熱意を語ります。

間伐した木材は、建築・建設物の資材のほか、紙やストーブ用ペレットの原料としても利用。

川上から川下まで一貫して担い
地域の木を最大限に活用

伐り出した木を製材し、倉庫で天然乾燥して住宅建築に利用。

洞口工務店の大きな特徴は、林業で伐り出した木材を利用し、木造住宅建築を行っている点。この地域で伐り出した木をほぼ100%使い、木の良さを知り尽くした自社の設計士や大工が、設計から施工までを一貫して行っています。また、収縮や変形を防ぐため木材を乾燥させる際も、近年は乾燥機を使うのが一般的ですが、洞口工務店では半年から1年をかけて乾燥させる天然乾燥にこだわっています。さらに、より多くの木材を活用するため、あらかじめ工場で住宅建築用に木材を切断・加工したプレカット材も手がけ、都市部の施工現場へ納入しています。
森に木を植林し、手入れなどの整備を行い、多くの木材を使用する住宅建築で間伐や主伐を行った木を活用するという、森林づくりのサイクルを自社で行っている洞口工務店。洞口さんは「近年はウッドショックで外国産材の値段が高騰していますが、日本では戦後に植えた多くの木が伐期を迎えています。手入れをしながらいい木を育て、日本の木、地域の木をどんどん使っていきたいです」と笑顔で話します。
自社設計・施工で木のぬくもりあふれる木造住宅から、社寺・仏閣建築まで手がける洞口工務店。

暮らしの身近にある山々を守る
その思いで故郷へUターン

2021年に洞口工務店へ入社した福山潮さん。

地域の森林を守る仕事を続けてきた洞口工務店。しかし一方で、技術者の高齢化という課題も抱えており、世代交代や若手の育成が急務だと感じていたそうです。そんな中、入社してきたのが、林業経験者である福山潮さん(36)でした。
福山さんは、自然環境に関わる仕事がしたいと、前職でも林業に携わっていましたが、森を切り拓いて宅地を造成する開発事業や、人が入らない奥山の森林整備などを行う中で、「人の暮らしに近い場所にある山を手入れしたい」と感じ、地元である高山市にUターン。先述したように、自社で伐り出した木を使った建築を行う洞口工務店に魅力を感じ、入社を決意しました。「製材されて倉庫に並んでいる木材を見ると、『自分が伐った木が役に立つのか』と感慨深いです。仕事のモチベーションも上がりますね」と、福山さんは誇らしげに木材を見つめます。
福山さんは現在、伐採した木や枝を運び出す「搬出間伐」を担当。

「山に入ると、そこでしか見られない景色に出会うことができます。林業は体力仕事で大変なこともありますが、日の差し具合や虫の声など、その日その時間で異なる風景を見ていると、この仕事でよかったなという思いが勝りますね」と、林業の魅力を語る福山さん。
現在は、山から伐採した木を運び出す搬出間伐を行っている福山さんは、仕事中、「土地の所有者がいる山であること」を意識しているといいます。「所有者のいる山は、その人にとっては庭のようなもの。誰が見ても、伐った後にキレイだなと思ってもらえることを目標にしています」と話し、木を伐り出す時は木に傷がつかないように心がけたり、伐った後も人が通りやすいように周囲を整備したりと、心配りを忘れません。
また、福山さんは現場での作業と並行して、間伐方法や経営計画の検討、補助金申請などを行うプランナーの業務も手がけています。福山さんはプランナーの仕事を通じて、さまざまな視点からどうやって森林を整備していけばいいかを考えるようにしているとし、「今後は現場とプランニング両方の経験を積んで、地域の森林が抱える課題の解決策を探っていきたい」と意欲をみせています。

次世代を担う
森林の守り手を積極的に育成

福山さん(左)を中心に、洞口工務店の林業部を担う若手技術者たち。

洞口工務店には、福山さんだけでなく、地元・高山市にある飛騨高山高校で林業を学んで就職した2人の若手技術者が活躍しています。現在は、福山さんを中心に3名でチームを組んで現場で作業を担当。林業では、少しのミスが大きな事故につながるため、一緒に働く人がどんな動きをするのかを確認しながら作業をするなど、チームワークを大切にしていると福山さんは話します。

洞口さんも「ここ3年ほどで若手が増え、世代交代が進んだと感じています。これからを担う人材を育成して、新たな体制でこの地域の林業を継続させていきたい」と、未来を見据えています。

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株式会社洞口工務店
高山市ホームページ