木の家ができるまでを知ることで
より愛着の生まれる住まいに
林業を通じて伐採された木々の多くは建築材として使われていきます。
最終形としての建物になるまで、木材は川の流れのように上流である山から下流である街へと流通経路をたどります。
その流通の中ではさまざまな人の手を経て加工されていきますが、具体的にイメージするのは難しいかもしれません。そこで、林業から製材業、木材加工、設計、建築までを社内で一貫して行う株式会社井上工務店(岐阜県高山市)の生産現場を訪れ、川上から川下までの流れを追ってみました。
木材加工の視点から見る
川上から川下までの流れ
同社では高山市内の山林で丸太を伐採しています。そのため使用する木材はほぼ100%飛騨高山市産材。トラックで山から本社工場へ運ばれてきた丸太は、製材機で柱や梁などの建築用材に加工されます。製材機とは木材を切削加工するための機械のこと。“帯鋸”と呼ばれる帯状のノコギリが高速回転している部分に丸太を通すことで建築材を製材していきます。
製材機。材が乗っている台車が奥から手前へ動きます。
切り出されたばかりの木材中には水分が多く含まれているため、乾燥が進むにつれて縮んだり曲がったり歪みが出てきてしまいます。製材後、木材を乾燥させてから仕上げの表面加工へ移ります。
天然乾燥中。乾燥しやすいように、木材の間に“桟木”と呼ばれる細い棒を挟みます。
木材乾燥法は事業体によってさまざまです。井上工務店では天日干しで1年ほど保管する天然乾燥、人肌ほどの温度に保たれた乾燥機内で数週間寝かせる低温乾燥の2つの乾燥方法を併用して木材を乾燥させていきます。高温高速の方法で乾かすよりも、素材本来の香りや色艶が残るためこれらの手法を採用しています。
接合したいもう一方の材の先端を、この穴(ほぞ穴)に差し込んで連結させます。
乾燥によって木材の含水率※が20%以下になると収縮が落ち着き安定してくるため、仕上げの加工へ進みます。モルダーと呼ばれる機械で木材を平行に薄く削りながら正確な寸法にそろえたり、構造材同士の接合部分である“仕口”を大工さんが一つひとつ加工したり、加工方法はさまざまです。納期などの都合上、こうした一連の加工をすべて全自動で機械が行う“プレカット加工”の業者に依頼する場合もあります。
※「含水率」:完全に乾燥した状態(水分量0)の木材重量に対する木材中の水の重さを表す。水分量0の木材重量=木材中の水の重さ、の場合は含水率100%ということになる。
こうして仕上げられた材は建築の施工現場に運ばれ、図面に沿って大工さんたちが一気に組み上げ、躯体ができあがっていきます。その後、屋根や内外装などを整え、完成を迎えます。
施主視点の流れを追う
木だからできる愛着の持てる住まい
仮に住宅を新築するとしましょう。家づくりは、建築主であるお施主さんとの打ち合わせからスタートします。どんなイメージの家に住みたいのか、暮らし方の理想、予算など要望や思いをヒアリング。この内容をもとに、大きく以下の流れで完成へと進みます。
土地探し・調査(地盤調査など)
↓
家づくり企画書(図面など)の作成
↓
設計契約
↓
材の発注・工事着工
↓
上棟
↓
完成
さらに、井上工務店ではお施主さん向けに工場見学も実施しています。丸太の状態から木を見てもらい、製材や木材乾燥の様子、大工さんの作業場、という実際の木の加工順に沿って案内。「工場内にたくさん転がる丸太やリアルな加工現場を実感してもらうことで、森林に生えていた木が材として加工されていく過程を理解してもらうことができます。木に対する愛着をより強く持ってもらうきっかけになっています」と話すのは同社の設計士である井端菜美さん。
「実際に家づくりで使う柱や梁にはお客さん自身の名前を記載する取り組みもしています。それを見ていただいたときは家族の皆さんに感動してもらえますね」
木の家ができあがるまでのストーリーを丁寧に伝え、自分たちが住む家の木により愛着を感じてもらえる工夫が、お施主さんたちの心を掴んでいるようです。
木の家を建てて販売するだけではなく、林業によって木材が生み出されていることや、木の家に住むことと森とのつながり、一本の木から住宅になるまでの流れを知ってもらうことで、木の家に住むことに対して何倍もの喜びや安心を感じてもらえるきっかけになっています。
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