日々の暮らしを支える電力林業から生まれるエネルギー

木材産業

取材先:株式会社バイオマスエナジー東海、株式会社岐阜バイオマスパワー

山に放置された枝葉や端材を有効活用し
林業従事者とともに、美しい山を残したい

日々の生活を送る上で絶対的に欠かせないエネルギー。実は電力の分野においても木材は大きな存在となっています。
中でも林業と密接な関わりを持っている発電所を訪れ、実際の取り組みについて話を伺ってきました。

間伐未利用材などを発電に利用し、
瑞穂市の電力消費量の約半分を供給

岐阜県瑞穂市、長良川と揖斐川の間にある巨大な木質バイオマス発電所。
この発電所を運営するのが株式会社バイオマスエナジー東海と株式会社岐阜バイオマスパワーです。

通常の火力発電所は、巨大なタービンを蒸気で回すことで、タービンにつながる発電機を動かして電気をつくります。
タービンを回す蒸気をつくるための燃料は、天然ガスや石油、石炭などの化石燃料です。この化石燃料に替わるものとして、
近年注目されているのが、植物や下水の汚泥、家畜の糞尿などの生物体(バイオマス)です。なかでも間伐材などの“木”を燃料に
使うものは「木質バイオマス発電」と呼ばれ、2012年7月から始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度の対象となったことで、新たな発電施設が全国各地で建設されています。


受け入れた材をチップに粉砕。凄まじい音が工場内に鳴り響きます。

粉砕機で粉々になったチップがコンベアで運ばれていきます。

 

コンベアで運ばれたチップは最終的にストックヤードへ。このチップがボイラー燃料となります。

発電設備の稼働状況は常にパソコンで管理。

瑞穂市の木質バイオマス発電所は、2014年12月に発電を開始した施設で、岐阜バイオマスパワーが発電施設を運営し、バイオマスエナジー東海が燃料となる木質チップを安定供給する役割を担っています。現在の発電量は約6560kw、送電出力は約6000kwで、これは2万5000世帯が暮らす瑞穂市内の電力のおよそ半分をまかなえる規模になります。年間の稼働日数は、年2回の定期メンテナンス期間を除いた345日で、24時間安定稼働を続けています。


林内で根株を回収している様子。※㈱バイオマスエナジー東海提供

バイオマスエナジー東海の稲垣欣久常務は、「当発電所では燃料として、間伐未利用材※を6割、山に残されてしまう枝葉や根株などを4割ほど使用しています」と話します。15年ほど前から木質チップのリサイクル事業を手掛けてきた稲垣常務は、2005年の愛知万博開催時、会場となった“海上の森”から出た間伐未利用材を木質ボードにし、万博会場内に敷き詰めたという経験も。ただ、その後は景気悪化などの影響を受け、木質ボードの事業が困難となり、そこで目を付けたのが木質チップを燃料にしたバイオマス発電事業でした。

※「間伐未利用材」:間伐で伐採された木のうち、柱材などとして市場で売れない小径木や曲がり材で山に放置された未利用の木材。

木質バイオマス発電は災害抑止にもつながる
これからも人々の安全な暮らしに貢献したい


木質バイオマス発電について熱く解説する稲垣常務。

稲垣常務が相談に訪れたのは、長年にわたり木質チップのボイラーを稼働させてきた経験を持つ岐阜バイオマスパワーの西垣誠所長でした。

西垣所長が以前に勤務していたのは、岐阜県内の染色工場です。染色の工程では大量の蒸気を使います。
かつては重油を燃やして蒸気をつくっていましたが、オイルショックで重油が高騰した際、木質チップのボイラーを導入し、
ずっと使い続けていたのです。「昭和50年代から木質チップのボイラーを使っていましたから、最初にお話を受けたときにも抵抗はなく、燃料さえあれば絶対にうまくいく自信がありました」と西垣所長。こうして国内6番目となる木質バイオマス発電所が岐阜県瑞穂市に完成することになったのです。

今では全国各地で木質バイオマス発電所が100ヶ所近く稼働していますが、その成否を分けるのは「燃料の供給」です。
稲垣常務も「チップの価格帯を理解せず、高値で買い続けることになれば、利益は出ません。安定的に妥当な価格設定で燃料を確保できるかが重要なのです。だからこそ、林業の未来がこれからどうなるのか非常に心配です」と話します。


左から西垣所長と野原課長。

この発電所では、間伐未利用材に加え、枝葉や根株なども集めて燃料として使用します。一見すると、とても木質チップとは思えない堆肥のような状態でも、燃やせる技術力があると言います。木質バイオマス発電の運営に力を注ぐ岐阜バイオマスエナジーの野原辰之課長は、「山に捨てられていた資源を活用する。そんな仕事に大きなやりがいを感じています」と話します。

「バイオマス発電ができるまでは、間伐で出た枝葉などが山のそこらじゅうに放置されていました。これらを集めて山をキレイにする。それが私たちの使命だと考えています」と稲垣常務。大規模な水害が発生すると、山から大量の木材が流れ、被害がさらに悪化することも懸念されます。放置された枝葉や端材を有効活用すれば、こうした災害を未然に防ぐことにもつながるのです。「林業の未来を担う人材に活躍してもらい、有効活用できる木をたくさん使ってもらった上で、どうしても使えない端材は私たちが引き受ける。これからも林業の担い手の皆さんと手を携えながら、山の木を大事に育て、使っていきたいと思いますね」(稲垣常務)

関連動画