林業や製材業があってこそ成り立つ生活道具としての木枡

森と暮らし

取材先:有限会社大橋量器

枡づくりも、いわば林業のサイクルの一つ
“森を守る大切さ”を日々痛感

林業で生産された木材は私たちの暮らしの中でどのように使われているのでしょうか。木枡づくりを行う有限会社大橋量器を訪ね、計量器や食器としての枡と木の関わりを探ってみました。

枡の材料である板材が入手困難となり
改めて感じた、林業との深い関わり

岐阜県大垣市にある有限会社大橋量器は、1950年創業の「木枡」のメーカーです。大垣市は、全国の木枡生産のおよそ8割のシェアを占める日本一の産地として知られています。かつて枡づくりは木曽ヒノキの一大集積地であった名古屋で盛んに行われていましたが、明治時代中期、職人の1人が出身地の大垣に戻って枡づくりを始めたのをきっかけに、地場産業として発展を遂げていきました。

枡の材料となるヒノキの端材。

そんな枡づくりに欠かせない素材が、森林から伐り出された木の加工時に出てきた端材です。ただ、同社の代表取締役を務める大橋博行さんは、ここ数年、「異変」を感じていると言います。「私たちは板状の木を入手するのが生業ですが、しばらく前から材料が十分に入手できなくなっているのです」。父である先代が会社を経営していた頃には、10tトラックに詰め込まれた板材が「もう要らない」と断るぐらいに運ばれてきたそうです。ところが今では、在庫が底を尽きかけ、ひどいときには「来週分の材料がない」といった事態になることもあると言います。「最初、現場で働く従業員から『材料がないんですけど』と言われたときには半信半疑でしたが、今では材料不足を痛感することが本当に多くなりました」。

原因を究明するため、製材所がある産地に出掛けた大橋さんは、そこで現実を目の当たりにします。「まずは枡に適した板材がない。私たちが使う板材は、和室の建具などに使われた素材の切れ端が中心ですが、そもそも和室をつくることが少なくなったことが要因でした。さらに最近は、経営が悪化して廃業される製材所が目立つようになり、仕入れにとても苦労しているのです」。現在は従来から使用している木曽ヒノキだけでなく、同じ岐阜県産の東濃ヒノキを仕入れるほか、他県にも足を運んで板材を集めている状況だと言います。


 
製造工場内の様子。枡を組み合わせるための溝を機械で一気に加工。

“かっこよさ”を発信していけば
林業を志す人は、もっと増えるはず

材料不足という切実な問題に直面したことで、今まで以上に林業の大切さを痛感するようになったという大橋さん。「我々の仕事は、いわば林業のサイクルの中の一つ。だからこそ、林業を取り巻く循環が今後もきちんと維持されていくのか非常に気がかりです」と話します。

masu cafeにて大橋社長のインタビュー。壁にもテーブルにも枡!

地場産業として発展を遂げてきた枡業界ですが、大橋さんが家業を継いだ当時、大垣市内に7社あったメーカーは、2019年には4社にまで減少しています。林業と同じように衰退の流れにあるのが実情です。そこで、大橋量器では今、枡業界が置かれた現状を打開すべく、積極的に新たな試みを行っています。デザイナーと手を組み、これまでにない斬新な商品を企画開発するほか、2018年には大垣駅前に枡の魅力を発信する「masu cafe(枡カフェ)」をオープン。これまで枡に縁がなかったような若い世代から人気を集めています。

ショートケーキに大吟醸・白雪姫が入った「白雪ケーキ」。

斬新なアイデアがヒットを生んだ「カラー枡」。

「ユニークな商品がいきなり爆発的にヒットするようなことはありません。それでも面白いと言ってくれる方は着実に増えてきています。最近では、飲食店などの店舗向けに、枡をタイル状に使った内装材を販売していく計画もあります」。今後はこの内装材のブランド化を進め、日本国内のみならず海外にも広く展開していく考えだと言います。

「私たち枡業界も、若い世代の人たちを中心にまず興味を持ってもらうことが大事だと考えていますが、それは林業も同じだと思います。そもそも林業は、日本にとって欠かせない大切な仕事です。『林業の仕事はカッコイイ』。そんな風に思ってもらえるようになれば、もっと働きたいという方が増えていくと思います。ぜひ日本の未来の林業を支えたいという方にたくさん集まってもらいたいですね」。

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