地域の山をどう守る? 思いを具現化できるプランナーの仕事

森林技術者

取材先:陶都森林組合

木が1本1本違うように
山によって林業の仕事も異なる

森林組合は、地域の山林所有者が組合員として所属し、組合員から受託した森林の経営を行っています。そのため、各地域の山が持つ特色によって、森林組合が行う仕事もさまざま。その中で、どのように森林を守っていくのかを考える、プランナーという仕事があります。今回は、 多治見市、土岐市、瑞浪市の3市を管轄する陶都森林組合(岐阜県瑞浪市)でプランナーとして勤務する、石河(いしこ)潤さんにお話を聞きました。

「自然を守るのはあなた」
その一言に惹かれて森林組合へ

石河さんは平成29年に陶都森林組合へ入職。

石河さんは、大学で環境問題について学んだ経験を生かし、自然に関わる仕事がしたいと考えました。それから従事した仕事は、山小屋運営から環境雑誌の広告営業など、実に多様。そんな中、林業に特化した就職ガイダンスを目にし、そこに掲示されていたポスターの「自然を守るのはあなた」というフレーズに心を打たれて、林業の道を志しました。

「始めは素人考えで、木を伐る=自然を壊すというイメージがあったんです。でも、林業が山を守っているという側面を知り、森林経営の計画を立てるプランナーの仕事がしたいと思いました」と話す石河さん。

しかし、林業に関してはゼロからのスタート。まずは現場を知ろうと、静岡県の天竜地域にある森林組合に就職し、林業技術者のノウハウを習得しました。その後、せっかくなら故郷の山を守りたいと“森のジョブステーションぎふ”を訪ね、陶都森林組合にプランナーとして就職したといいます。

まちと山が近い地域の
森林組合に求められること

プランナーの仕事は、建設工事でいう現場監督と似たところがあります。作業を予定している山へ行って、現状を把握するための調査を行い、間伐が必要な箇所を見極めたら、技術者のスケジュールなどの作業計画を立てます。

「特にこの地域は、山とまちの距離が近いため、作業による倒木や土砂などにも十分に気を配らなければいけません。その点、うちの技術者は技術力も職人としてのプライドも、地域トップクラス。木を伐った後の現場もとても美しく、安心して任せられます」と笑顔を見せる石河さん。そこで、自慢の仕事ぶりを見せてもらうために、利用間伐の現場を訪ねました。

この地域の間伐材は、8~9割が建材に使われるヒノキ材。建材にならないものは、パルプ材として使われます。

「山が整えられていく達成感と、自分の技術を追求できるところが、林業のおもしろさ」と語るのは、利用間伐班の班長を務める足立 治永さん(36)。

「技術者の技術を生かし、働きやすい環境をつくるのもプランナーの仕事」と、積極的にコミュニケーションをとる石河さん。

手入れして何年か経った後、間伐で日光が入るようになったことで、下から草が生えてきたり、木が太く育っていたりするのを見ると、やりがいを感じるという石河さんは、積極的に現場へ足を運び、技術者たちとも意見を交わします。また、まちに近いということは、土砂崩れなど自然災害の影響も受けやすいということ。被害を防ぐためにも、雨が降ると気になる箇所を見に行ったり、作業した場所を見回ったりしています。

「プランナーを始めてみて、山を守ることだけ考えていては、林業は成り立たないということを痛感しました。今も葛藤はありますが、山とまち、環境保全と林業にとっての利益など、さまざまなバランスをとりながらプランニングすることが大切だと感じています」

また、林業を目指す人に対しても「私にとって林業は天職でしたが、やはりいいところも悪いところも知った上で始めた方がいい。地域によっても林業の仕事は異なります。体験や見学ができる機会もありますので、ぜひ実際に山へ来て感じてほしいですね」とエールを送っていました。

自由がきく林業は
仕事と家庭を両立しやすい職業

陶都森林組合の事務所に勤務する石河さん。普段は8:30~17:30で働き、休日もカレンダー通りに取得しています。

静岡で出会った奥様と結婚後、陶都森林組合の管轄エリアである土岐市内に移住した石河さん。暮らしの中でも、山とまちが近いこの地域の特色を実感しています。

「山奥で林業をやりたいと移住したものの、それまでとの暮らしにギャップが大きかったという声も聞きますが、この辺りは自然も豊かで交通や生活の便もいいので、とても暮らしやすいです。子どもが成長してからのことを考えると、生活のしやすさは重要だと思います」と石河さん。

現在1歳の子を持ち、育児真っ最中の石河さんですが、普段の仕事は17時30分には終わるため、家庭での時間も十分に確保できるそう。また、仕事の調整もしやすいため、子どもが急に体調を崩した時も、通院などのために休日を取ることができると言い、「家族を持つ身としては、休日や給与などが安定しているのも森林組合のメリットの1つ。現場の技術者も夕方には作業を終えるので、林業は家庭と仕事の両立はしやすい業種だと思います」と働きやすさを伝えてくれました。

もっと多くの人に
林業の魅力を知ってもらいたい

石河さんは、森のジョブステーションぎふが行う「森ジョブスカウト」などでも自身の経験や林業の魅力を伝えています。

石河さんには、プランナーの仕事とは別に、陶都森林組合で実現したい夢があります。それは、林業の魅力や重要性をより多くの人に発信すること。以前勤めていた天竜地域にある森林組合では、地域の学校で林業についての授業を開催するなど、一般の方に林業を知ってもらう場が設けられていたそう。そのため石河さんも、この地域でもそうした機会を創出ができればと考えています。

「まちと山が近いということは、いわゆる川上から川下までの連携もとりやすく、まちの人にも魅力を伝えやすいはず。今もイベントなどで話をさせてもらう機会をいただいていますが、もっと広く情報を発信する場をつくっていきたいです」と、意欲を見せています。

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