都市部の林業ならではの地元とのつながり、地域の守り方

林業会社/森林組合

取材先:株式会社木の国

木を伐ることにとどまらない!
地域を守り支える林業の仕事

「木の国・山の国」といわれる岐阜県。しかし県内には、市街地が面積の多くを占めている都市部もあります。林業といえば、深い山の中で間伐を行う仕事というイメージが強いと思いますが、そうした都市部の林業事業者は、どのような仕事しているのでしょうか。今回は、岐阜市にある(株)木の国を訪ねました。

地域の山を守り続け、
森林の多い山県市から岐阜市へ

(株)木の国2代目の遠藤雅樹社長。

お話を聞いたのは、(株)木の国の代表取締役社長・遠藤 雅樹さん。もともと木の国は、遠藤さんの父である先代が山県市で設立した会社で、当初は山県市や関市の山村部で植栽や間伐、伐採を行う造林業が中心だったそうです。

岐阜市へ会社を移した後も、マツクイムシの被害を受けた木を伐採し、被害の広がりを抑えるなど、地域森林の守り手を担ってきました。遠藤社長は、岐阜市内に会社を移した後に同社へ入社。現在も、間伐した木を建築材やバイオマス原料として販売する素材生産事業などの間伐事業を行っています。

また遠藤社長は、行政と林業事業者が地域の森林が抱える課題を共有し、今後の整備方針を審議する会議にも参加。行政の計画が実現可能なものか、林業を行う側として意見を出し合い、実際に環境保全林整備事業も行い、先代が続けてきた守り手の役割を継承しています。

間伐事業は12~3月が繁忙期。以前は1m以上の雪をかき分けての作業もあったが、近年はほとんど積雪がなく、作業負担も軽減しているそう。

安全で楽しい森をつくり、森と人をつなぐ仕事

木の国が運営する「ながら川ふれあいの森」のセンターハウス「四季の森センター」。

もう1つ、木の国が行う事業の中で特徴的なのは、指定管理者として行っている「ながら川ふれあいの森」の運営です。長年、この周辺の保全林整備を行っていたこともあり、この森がつくられて以来、環境整備はもちろん、キャンプ場の維持管理や受付、クラフトや散策などを行う森林教室などのイベント運営なども行っています。

「ながら川ふれあいの森」は、岐阜市北東部にある岐阜市最高峰の百々ケ峰にあり、約20kmにも渡る遊歩道を整備。

快適に利用してもらえるよう、施設の清掃や草刈りなどの管理作業に従事。

利用者から感謝の言葉をかけられることもあり、励みになると話す管理者の遠藤忠幸さん。

ながら川ふれあいの森は、都市近郊で気軽に森林を散策できる人気スポット。キャンプ場や広場があり、四季を通してハイキングや自然観察が楽しめるほか、森のようちえんなども開催され、市民の憩いの場になっています。

「多くの人に森林に来てもらいたい。そのために、人が集まる場所をつくりたいと思い、森の音楽会を開いたり、森林教室を開催したりと、工夫を凝らしています。『楽しかった』という声を聞くと、やはりうれしさを感じますね」と笑顔を見せる遠藤社長。林業の仕事は、普段は地域の人たちとふれ合う機会が少ない仕事。その分、一般の方の声を直接聞くことができるこうした事業には、いつもとはひと味違う楽しさがあると言います。

安全で楽しめる森林をつくり、森林と人を結ぶ。それは、都市部の林業が担う地域の守り方の1つになっているようです。

木がもたらす街の被害を最小限に

公園や街路樹などの維持管理は、いざという時の防災・減災につながります。

また近年、遠藤社長が力を入れているのが、さらに違う方向から地域を守る事業。頻発する自然災害の被害を防ぐ取り組みです。

例えば、台風で公園の木や街路樹が倒れると、道路をふさぐなど住民の生活に支障が出ます。しかし場合によっては、造園業者や土木業者では処理できないものもあるそう。「こうした時、私たちが駆けつけ、林業で培った技術を活用しています。最近災害の被害も甚大化しているため、地域住民から『倒木被害が出るといけないから、災害が起こる前に伐ってほしい』という要望もあり、今後もニーズは高まると感じています」と遠藤社長。

都市部だからこそ林業が貢献できること。それを追求するためにも、遠藤社長は人材の確保にも注力しています。「林業を志す人は、山の中で働きたいという方も多いですが、やはりその環境に順応できるかは大きな問題。都市部なら生活に不便はないので、林業初心者でも働きやすい環境だと思います」と、新たな担い手確保に意欲を見せています。

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