学校はもちろん知育玩具からも学べる、林業や森林、木のこと

森と暮らし

取材先:岐阜県立森林文化アカデミー、株式会社郡上割り箸

学びとは知ること、気付くこと
森と人の距離が少しずつ縮まる

街中で暮らす多くの人にとって、森林の存在を身近に感じる機会は少ないと思います。学校教育においても、林業のことを知る授業を受けたという人はあまりいないのではないでしょうか。

しかし、はるか昔から私たちは、森の資源を工夫して活用してきました。生きていく上で切っても切り離せない関係だったのです。知ることで、林業をやってみたい木を暮らしの中で使いたい、そう思うきっかけになり得ます。林業に携わる人や木材を有効活用する人が増える可能性が大いにありそうです。森林と私たちの関係性を再び近づける学びの場の重要性が増していると言えます。

そこで、林業の教育機関や木製知育玩具の製造現場を訪ね、学びの現場を覗いてみました。

孫の世代を見据えた
地域の森のプランニング

まず訪れたのは、森と木に特化した教育施設である岐阜県立森林文化アカデミーです。林業だけではなく、木造建築、木工、環境教育、里山保全など、森や木に関わるさまざまな生業(なりわい)や文化について幅広く学ぶことができる全国でも稀有な存在です。今回は林業講座を担当する杉本和也先生に話を伺いました。


 

山に詳しい人が減ってきたからこそ
森林管理のマネジメント力が求められる

丸太を運ぶための高性能林業機械「フォワーダ」で運搬中の学生。

「最近は林業の現場側から、森林経営の計画や現場をマネジメントできる人がほしいといったニーズがありますね。山に詳しいベテランがいなくなってきて、世代交代という側面があるのかもしれません」。私たちの暮らしと森がかけ離れてしまったゆえの現状とも言えそうです。

こうしたニーズに応えるように、林業講座の授業では伐採等の技術はもちろんのこと、50年、100年の長期的な視点かつ面的に森林管理できるような講義も開講。森林に一番近い存在として、将来にわたって人と森林が良好な関係を保ち続けられるよう、地域の森林の将来像をプランニングできる人材が求められています。

林業の生産システム構築等が専門の杉本先生。高性能林業機械も乗りこなす。

「森林業界の川上から川下まで、全体を俯瞰できるようになるので、進路の選択肢が広がるのも大きいですね」と杉本先生。林業大学校のような林業専門の学校は、京都府や長野県などに何校かありますが、同校ほど多様な面から森林文化について学べる学校は他にないと言っても過言ではありません。

葉や樹形から樹種を判別する授業の様子。

また、入学者は20歳前後から60代までと年齢層が豊かで、北海道から沖縄県まで全国各地から集まるのも特徴の一つです。全体の学生数は80名前後と比較的少ないことから、学生同士・教員との距離が近く、多様な人と意見交換を深めながら、林業や森林について学ぶことができます。
 
こうした環境に囲まれているからこそ、仕事を通じて森林とどう関わるのが良いのか、しっかりと吟味できる場がここにはあります。

岐阜県の16種類もの樹種を活かした玩具で、
まちと森林、子どもたちと木をつなぐ

次に訪れたのは、岐阜県産木材にこだわったユニークな木製玩具や木製品の製造・販売を手がける株式会社郡上割り箸。郡上市明宝にある事務所・工房で、割り箸・木育事業部の野村さんに話を伺いました。

野村純也さん。前職は飲料メーカーの営業だったそう。

「木育のため」ではなく、
かわいらしさや気持ち良さで選ばれたい

「木育というと木や森について学ぶイメージがありますが、私はそれに少し違和感があって。子どもにはまず木を好きになってもらいたい。だから玩具づくりでも見た目や手触りの良さを重視します。握ったり積んだり自由に遊びながら、香りや色、手触りの違い、焼印に気づき、『何だろう?』って興味を持ってもらえるのが理想ですね」。購入者の多くが実際につみきを手に取り遊んだ人たちという。五感に訴えかける木の心地良い感覚は、確かに他の玩具に代え難いものがあります。

㈱郡上割り箸の人気商品の一つ「まあるいつみき mini stand」

「この玩具が木と親しむきっかけになり、大人になったときに岐阜県産木材で建てた家に暮らしたい、森林のために働きたいと思ってくれたら嬉しい」と野村さん。こうした思いがあるからこそ、材の確保が容易ではない岐阜県産広葉樹の活用を貫いています。決して押し付けがましくなく、遊んでいてふと気付いたら岐阜の木だった。それをきっかけに林業や森林のことも知り始める。そんなさり気ない木づかいを目指しています。


出張販売イベントでは実際に商品で遊んでもらう機会を大切にしている(㈱郡上割り箸提供写真)

林業が50年、100年単位で森林管理の計画を立てていくように、おもちゃづくりも10年、20年、100年先を見つめているのです。近年はよく木材活用が謳われていますが、きっと人の意識が変わっていくのも、とても時間のかかることなのかもしれません。

知って気付ける学びの場は
学校だけじゃない

本格的に林業や森林のことを学びたいとき、教育施設である森林文化アカデミーは頼もしい存在です。実際に地域の森を管理していくための知識や技術を習得することができます。仕事にも直接結びついていくものです。

しかし、学びはそれだけではありません。

郡上割り箸のおもちゃのように、森林・林業に携わる人たちのストーリーがつまったモノにも、そうした背景を知り、気付くきっかけが眠っています。学びの機会をつくりたい人にとっても、学びを得たい人にとっても、アイディア次第で学びの場は色んな形があります。森林・林業の可能性を広げる学びは足元にたくさん隠れているのです。

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